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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)55号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点について。

原判決は「買受け新家主のなす解約申入について正当の事由があるかどうかを判定するに当つては、新家主側に存する自ら使用することを必要とする程度その他の事情の外、借家人の居住の安全が害されないかどうか、少くともその居住が危険にさらされることを防ぐため、新家主において当時の社会的な評価上納得のゆく処置を講じたかどうかを特に考慮にいれなければならない」と判示していることは所論のとおりであるが、右判示は、新家主において少くとも借家人の居住が危険にさらされることを防ぐため、適当な処置を講じたことが認められない限り、新家主側の事情の如何を問わず右解約申入に正当の事由ありとは認められないとする趣旨でないことは原判文の前後を通じこれを窺うに十分である。従つて原判決が、借家人である上告人に移転先の目あてがなく、新家主である被上告人において、上告人の居住につき適当の措置を講じたことが認められないと判示し乍ら他面被上告人側に存する自ら使用することを必要とする限度その他諸般の事情からして、被上告人の本件解約申入につき正当の事由ありと認めているからといつて、所論のように、原判決の理由に齟齬ありとすることはできない。論旨は理由がない。

同第二点について、

所論原判示「被控訴人(被上告人)の所有者の利益」というのは被上告人が所有者として本件家屋に居住することによる利益を指称する趣旨であることは原判文上明らかである。論旨は原判決の趣旨を正解しないものであつて採用することはできない。

同第三点について。

憲法二五条の法意は国家は国民に対して健康で文化的な最低限度の生活を営ましめる責務を負担し、これを国政上の任務とするという趣旨であつてこの規定によつて直接に各個人の現実的な生活権が保障されるものでないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第二〇五号同年九月二九日大法廷判決参照)。従つて他世帯との同居を命じた原判決を以て直ちに右憲法の条項に違反するとする論旨の採るを得ないことはおのずから明らかである。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、全裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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